Every place is filled with stories if you just scratch the surface.

英語 重箱の隅1;日本の野球は和製英語だらけ!?

2019/08/29
 
この記事を書いている人 - WRITER -
メジャーリーグベースボールから透けて見えてくるアメリカの文化や習慣に関する記事、その他、旅、英語、音楽関連の記事を、ちょっと変わった視点で書いて行きます。

MLBもNPBも、2019シーズンを折り返しました。
ともにルールはほぼ同じですが、USA発祥の競技なので、日本野球の専門用語には和製英語がたくさんあります。半分以上、あるいは大部分と言って良いかもしれません。「ナイター」が和製英語であることは、多くの人の知るところとなっていますね。

どんな和製英語であっても通じさせすればそれで良く、また根付いてしまえばそれはもう立派な外来語です。それらの中には以下のように誤解から生まれたと思われるものもある一方で、

マンション    apartment
コンセント    wall outlet、electric outlet あるいは単にoutlet
スマート     slim、slender

長過ぎるものを間引いて短くする、外来語として定着している馴染みある言葉に置き換える、などして使い易くしたり、ポピュラーにするために言い易く変えたり、と言った、利点を見込んで作られたものもあります。

エコエネルギー(短縮)      eco-friendly energy
フェイクミート(置換)        alternative meatあるいはmeat alternative
ランニングマシン(置換)     treadmill
フィットネスバイク(置換)      stationary bicycle
インディージョーンズ(邦題化) Indiana Jones

従って和製英語を批判するつもりは全くありません。一方、興味ある分野で使われている専門用語が和製英語であるか否かを、またその原語を、知っておいても害はないし、知的好奇心を満たすことにもなります。しかしここではそういう硬いことではなく、長年MLBを観て来た経験から、日米での表現や考え方の違い、文化の違いなども含め、日本の野球における和製英語を面白がってみることにします。

まずは、ボール、ストライク、アウト、セーフ。これらは英語をそのまま日本語発音のカタカナにしたもので、表現を変えない素直な外来語です。
では、次の内、上記のように英語をそのままカタカナにしたものはどれでしょう?

シングルヒット
ツーベースヒット
スリーベースヒット
ホームラン
フォアボール
デッドボール

答は「ホームラン」のみ。他は全て和製英語です。以下それぞれについて、対応する英語を右に記します。

シングルヒット       single あるいは a base hit
ツーベースヒット     double
スリーベースヒット    triple
ホームラン         home run
フォアボール       walk
デッドボール        a hit by a pitch

単打はsingle あるいは a base hit であって、シングルヒットとは決して言いません。
同様に、二塁打はdouble、三塁打はtriple。また、それら長打のことを、extra base hitと言います。
正岡子規がトランスレートした二塁打・三塁打を、誰かが再度英語的表現に “逆直訳”したのでしょうか?あるいは・・・、

先日MLBのTV中継を観ていて、二塁打、三塁打を英語でツーベースヒット、スリーベースヒットと言うのだと誤解しそうな表現に出会いました。
「彼はこの試合ここまで二本の単打を放っています」“He has two base hits so far.”
これを聞いた、私くらいの英語力の誰かが
「ツーベースヒット?そうか、二塁打のことを、ツーベースヒットと言うのか・・・。」
こんな誤解が、野球における和製英語を作って行ったのかな?などと、根拠なく勝手に想像してみました。
因みに、single、double、tripleは動詞としても使います。
He singled (in the) first (inning).という具合に。

[デッドボール]
英語ではa hit by a pitchです。
正岡子規が作った「死球」という言葉を、わざわざまた誰かが英語に似た表現に“翻訳”し直したのでしょうか?また正岡子規はなぜ「死球」としたのでしょうか(これについては、勉強不足・調査不足で私は知りません。どなたか教えて下さい)?
ファウル等によりボールが死んでいる(プレーが止まっている)状態を、英語でBall is dead.と表現し、またその死んだボールのことをdead ballと言います。
先日MLBのTV中継を観ていて、英語を母国語としない人が、このa hit by a pitchとdead ballとを混同するかもしれないと思わせるできごとがありました。
右打者インサイド高めのボールを捕球したキャッチャーが、飛び出した走者を刺そうと素早く一塁に送球しました。かなり際どいタイミングだったので、塁審が下した判定に対し、フィールドでも放送席でも、議論が沸きそうになりましたが、ここで主審が、少し遅れてa hit by a pitchをコールしました。
TVは超スローのリプレー映像を流し、放送席ではアナウンサーが以下の様にコメントしました。
「ああ、確かにユニフォームの胸に、僅かに触っています。なるほどここでボールは既に死んでいた訳ですね。」詳細な表現は忘れましたが、この後半のセンテンスでアナウンサーは、死んだボールを意味してdead ball という言葉を使っていました。聞く人の英語レベルによってはこれを、「ユニフォームに掠ったから死球である」と言ったのだ、と(つまり、死球のことをdead ballと言うのだと)誤解する可能性があると思いました。

以下のカタカナはいずれも和製英語で、原語はそれぞれ右記のとおりです。

ランニングホームラン          inside-the-park home run
エンタイトルツーベース         ground rule double
ネクストバッターズサークル       on-deck circle あるいは単に deck
フィールダースチョイス         error of fielder’s choice
タイムリーヒット            RBI single、文語で希にtimely hitあるいはtimely hitting
タイムリーツーベース          RBI double
一塁(二塁・三塁)キャンバス(俗称)  bag(俗称)
イレギュラーバウンド          wild bounce
ショートバウンド            short hop
ライナー                line drive(見出しなどでliner)
キャンプ                spring training
オープン戦               spring training あるいは spring training game
ランナーコーチ             base coach
バックスクリーン            batter’s eye screen
タッチ                   tag
タッチアップ               tag up
イン(アウト)ハイ(ロー)       up(down) and in(away)
ゴールデングラブ           gold glove
スコアラー               scout

[ランニングホームラン]
確かに一生懸命走らなければランニングホームランにならない場合が殆どですね。しかし英語では、inside-the-park home run。

[エンタイトルツーベース]
英語は ground rule double であることを知っている人が、近年増えて来ました。entitledなどという難しい英単語になぜわざわざ焼き直したのか、疑問に思います。自動的に与えられることを意味するためにentitleしか思い当らなかったのか、あるいはこれが最適であると判断したのでしょうか?
自動的と言えば、かつて長嶋茂雄読売ジャイアンツ終身名誉監督がプロ野球の解説で、「ランナーはオートマチックにスタート」という表現をして、世間にはそれを揶揄する向きもありました。しかしあれは正しい英語です。“Two outs, the count is full and the runners go automatically !”など、MLBのTV中継で時々耳にします。
因みに、長嶋さんが良く口にしていた「レフティー」「ライティー」も、俗語ではありますが、実際に使われている英語です。

[ネクストバッターズサークル]
原語のdeckでは、日本人が別の物をイメージしてしまいそうである一方で、nextという英単語は誰でも知っているので、分り易くするために、長くはなるけれども敢えてこのようにしたと推察できます。英語では on-deck circle あるいは単に deck です。
これに関連した、ちょっと面白い日米の違いを紹介します。日本では接戦のゲームでアナウンサーが良く「同点のランナーが二塁に、逆転のランナーが一塁に出ました」と言いますが、MLBでは、3、4点のビハインドでも、追い上げムードの場合もっと上流まで遡り、“Tying run is at the plate and go ahead run is on deck.“(同点のランナーがバッタボックスに、逆転のランナーがネクストバッターズサークルにいます)などと言います。

[フィールダースチョイス]
アウトを一つ取る複数の選択肢がある時、例えば、「グラウンドボールを処理した内野手が、進塁しようとする二塁ランナーを三塁で殺そうとして結果的にアウトにできなかったが、一塁に投げてアウトを取る選択肢もあった」というような場合、ランナーが進塁し、且つバッターが一塁に生きた理由を、日本では単にフィールダースチョイスと言いますが、英語ではこの場合an error of fielder’s choiceです。野手選択による失策が記録されます。日本ではアウトを取れなかった場合にのみこの表現が使われるようですが、米国では、野手の判断によりどちらかでアウトを取った場合、an out of fielder’s choiceと表現しています。野手選択によるアウトです。
The Pirates scored two more runs in the bottom of the fourth with Walker scoring Marte with a double and then later coming around to score on a fielder’s choice groundout, giving the Pirates a 5-1 lead after four innings.

[タイムリーヒット]
頻繁に使われますがこれも和製。英語では、RBI(run batted in = 打点)を使って、RBI single(打点付き単打)、RBI double(打点付き二塁打)などと表現します。複数打点の場合は two run single、three run double などです。実況中継のアナウンサーが「タイムリー」と言うのを聞いたことがありません。しかし文語で希にtimely hitやtimely hittingを目にします。
4月21日(日)、ナショナルリーグ、アリゾナ・ダイヤモンドバックス@シカゴ・カブス3連戦の第3戦。9回表に1-1の同点に追いつかれたその裏、ランナーを一・三塁に置いて、カブスのボーティー内野手は、右中間へのヒットを放ち試合を決めました。
実は、遠くコロラドで数時間後に迫った第三子出生のために延長戦を避けたかった彼は、チームメイトの手荒な祝福を受けた後、NBCスポーツのインタビューに短く答えただけで、メディアセッションをスキップし、空港へ急いだそうです。カブスのこのサヨナラ勝ちを伝えるMLB公式ウェブサイトの記事は、冒頭のセグメントを、“Talk about timely hitting.(何と言うタイムリーなヒットだろう)”で締め括っていました。
その記事には、前出のdeckを使った、こんな文章もありました。
“Needless to say, Bote did not want extra innings – not with Baby Bote No.3 in the on-deck circle.(当然ボーティーは延長戦を避けたかった。三番打者[第三子]はネクストバッターズサークルにいる[から生まれる]訳ではないのだから)“
メジャー二年目・26歳の彼にとって、昨年8月12日の代打満塁逆転サヨナラホームランを含む、既に4本目のサヨナラ安打でした。因みに「サヨナラ」はwalk-off。walk-off single、walk-off home runのように使います。

[一塁(二塁・三塁)キャンバス(俗称)]
一塁・二塁・三塁各ベースの別称として、日本のアナウンサーが、一塁(二塁・三塁)キャンバスと言っているのを良く耳にします。ちょっと格好良く聞こえる表現ですね。確かに一塁・二塁・三塁の各ベースはキャンバス地で覆われています。しかしこれも和製。キャンバスとは言いません。一方英語にもfirst, second, third base の別称があります、こちらは袋を意味するbag です。どの塁なのかを説明する必要のない場合に限り、単独で(つまり first[second, third] bag とは言わない)、且つ頻繁に使います。
因みに、本塁の正式名称home base は殆ど使わず、実況中継でも報道でも、専ら home plate 或は単にplateが使われます。一塁から三塁と違って板状だからです。home base と言う表現は、聞いたことがありません。先日 The Umpire Bible を読んで初めて目にしました。

[イレギュラーバウンド、ショートバウンド]
私の英英辞典では、boundに、弾む、跳ねるという意味はありません。しかし英和には、(ボールなどが)(大きく)弾む、跳ね返るとあります。また、和英で「弾む」を引くと、bounceだけでなくboundも出て来ます。実際、書かれた文章では以下のような使われ方をしています。

Ludwick pounded yet another slider into the turf bounding toward shortstop Barmes, who threw across the infield for a putout.

しかしいずれにしろ、MLBの中継でアナウンサーが使っているのは、「wild bounce」「short hop」であり、バウンドとは言いません。

[キャンプ]
2月から、温暖なフロリダ州とカリフォルニア州で始まる各チームのトレーニングを、spring trainingと言い、campとは滅多に言いません。ただし、以下の様な使い方はします。

Morton started 17 games in 2010, the first season he broke camp with a big league club.

最近では各チームとも設備を充実させ、フロリダ州あるいはカリフォルニア洲に、複数のフィールドと、併設したクラブハウス、ウェイトトレーニング施設を持ち、セラピープールや、更にはスポーツサイエンス棟などを持っているチームもあります。

[オープン戦]
上記に続いて始まる練習試合を、日本ではオープン戦と言いますが、この「オープン」も、リーグの枠にとらわれないことを表現した和製。英語ではキャンプ同様spring trainingあるいはspring training gameです。辞書にはexhibition gameとありますが、報道を読んだり聞いたりする中で、私がお目に掛ったことはありません。因みに、フロリダ州でキャンプを張るチームによるグレープフルーツリーグと、カリフォルニア州でのカクタスリーグとに分れています。

[ランナーコーチ]
一塁と三塁のファールテリトリーで、走者や打者に指示を出し戦略を伝える人のことを、日本では主にランナーコーチと言っていますが、英語ではbase coach。コーチャーという言葉も時々耳にしますが、そういう英単語はありません。

[ライナー]
これも、ナイターと同様和製です。英語ではline drive。
ただし、単語数や文字数を減らしたい「見出し」においては、linerが良く使われます。
見出し;Pedro Baez exits after taking liner off leg
本文最初のセグメント;Dodgers reliever Pedro Baez lasted just two pitches into his outing on Tuesday night against the Rays before taking a line drive off his right leg. He was diagnosed with a right upper leg contusion.
ライナーを和英で引くと「line drive」、line driveを英和で調べると「ライナー」と、辞書は両者を正しく結びつけています。一方、流し打ったライナーがファールテリトリー方向にカーブする現象を「ラインドライブが掛かる」と言うのを時々耳にしますが、これはline drive の誤解と考えられます。
低目を打ち下ろすように、ボールの近い側を捉えて反対方向にライナーを放つことを英語でslushと言いますが、上記のような、うまく流し打って、更に離れる方向にカーブするボールを、MLBではほとんど見ず、従ってどう表現しているのかも判りません。
因みにフライはflyあるいはfly ballで素直な外来語。ゴロはおそらくground ballの最初の三文字でしょう。

[ゴールデングラブ]
英語はgold glove。goldenでは、「金色の」という意味になります。直訳すると、MLBは金のグローブ、NPBは金色のグローブ。しかし英語にもgoldenは用いられ、golden opportunityとか、golden boy/girlという表現もあります。

[スコアラー]
相手チームの情報を集め、分析する人を、日本ではスコアラーと言っていますが、英語ではscout。 scorerは、ヒットかエラーか、ワイルドピッチかパスボールか等を判定することも含め、全てのアクションをオフィシャルに記録する人、つまり公式記録員のことです。また辞書には「様々なスポーツにおいて得点する人」ともあります。
将来有望なタレントを探す人を日本の野球ではスカウトと言いますが、MLBではこれもscout。動詞としても使います。

ここまで野球における和製英語を列挙してみましたが、面白がってもらえたでしょうか?他にも、原語から更に懸け離れてしまった感のあるものもあります。スポーツニュースなどで、節目や、何かを記念するホームランを意味して盛んに使われている「メモリアル・アーチ」などは、英語圏の人が聞いたら、何のことやらさっぱり解らないでしょう。「葬儀に列席した人達が、アーチをくぐったりするのかな…?」などという具合に。

次の記事では、ベースボールと野球に見る、表現や文化・習慣の違いについて述べてみます。

この記事を書いている人 - WRITER -
メジャーリーグベースボールから透けて見えてくるアメリカの文化や習慣に関する記事、その他、旅、英語、音楽関連の記事を、ちょっと変わった視点で書いて行きます。

- Comments -

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

Copyright© アルゲニー通信 , 2019 All Rights Reserved.