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今お勧め!この2冊 ;(1)復活の日

2022/07/23
 
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メジャーリーグベースボールから透けて見えてくるアメリカの文化や習慣に関する記事、その他、旅、英語、音楽関連の記事を、ちょっと変わった視点で書いて行きます。

COVID-19パンデミックのさなか、私は不謹慎にも、SF「復活の日」を読み返し、面白がっていました。  この作品は、小松左京氏1964年の書き下ろしで、1980年には角川により映画化されました。そして原作から実に48年後の2012年、米国ビズメディア社からハイカソル・レーベルの英訳版が出版されました。

私は高校3年時の1979年に原作を読みました。映画は封切を観ました。そして今回のパンデミック初期、41年前に買ったコピーを読み返し、次いで英訳版を取り寄せて、今読み終えました。

原作   : 「復活の日」

映画   : 「復活の日」  副題「VIRUS」

英訳版書籍 : 「VIRUS」     副題「The Day of Resurrection」

復活を意味する英単語は、revival、restorationなど幾つかあり、複数の言葉を組み合わせればもっとたくさんの表現方法があるでしょう。その中で、生命や希望などの復活を意味するのが、resurrectionです。また先頭を大文字にしたResurrectionは、キリストの復活です。

ストーリー前半は、超概略以下のとおり。

英陸軍細菌戦研究所の手にある最強最悪の生物化学兵器「MM-88」が、スパイの手によって盗まれます。そのアンプルを積んだ木製の小型セスナ機が、冬のアルプス伊仏国境付近で墜落、アンプルが割れます。

春、チベット風邪と呼ばれる新型インフルエンザが、ニューカッスル病とともに流行、世界に蔓延します。かぜの症状の他、急性心筋梗塞と代謝異常を起こし、死亡率の極めて高いこの伝染病の、真の原因が掴めないまま、雪と氷で隔てられた南極の約1万人を残して、全世界は僅か3ヶ月で死滅し…。

COVID-19関連のニュースを観ていて、現実と小説とを一瞬混同してしまうくらいに、臨場感たっぷりでした。今回私がお伝えしたいことの一つは、小松左京氏が偉大な作家であるということです。 文学部出身の氏の、専門ではないウイルス、核酸、バクテリアに関する広く深い知識は、膨大な量の勉強と徹底した調査によるものと思われます。

そして56年後の今、COVID-19パンデミックとの類似点。 新型コロナウイルスは、鼻や喉の粘膜の他、心臓の筋肉でも増殖し、心臓疾患を持つ人は重症化し易い。 一方小説の中のMM-88は、心臓麻痺を起こす。

また、小説ではチベット風邪と名付けられますが、一方の新型コロナウイルスは、流行の初期に一部で「中国ウイルス」「中国かぜ」などと呼ばれました。

更に、MM-88は陸軍細菌戦研究所が開発・改良した生物化学兵器で、一方パンデミック初期に、新型コロナウイルスが武漢の研究所から漏洩したものだという噂がありました(証明されてはいない)。

これらを見るにつけても、小松左京氏の偉大さを改めて認識しました。

この物語の、地球的環境で驚異的な増殖力を持つ生物化学兵器を整理すると、以下のようになります。

RU308 ; 人工衛星が宇宙空間から採取した微生物を、米陸軍細菌戦研究所が生物化学兵器として開発し、改良途上だったRU300シリーズの一つ。

MM-88 ; スパイが米国から盗んだRU308を、英陸軍が改良していたMM-80シリーズの一つ。 最も増殖力の高いMM-87を、実戦向けにその毒性を弱めようとして、逆に更に 強まった生物化学兵器。

ウィキペディアには「核酸のみの存在」とありますが、私は宿主細菌も含めた生物化学兵器と 解釈しました。難しい…。

-ウィキペディアから-「核酸のみの存在で、インフルエンザを含むミクソウイルス群に寄生し、宿主の増殖力・感染力を 増すことで、大規模な蔓延を引き起こす。体内に侵入すると神経細胞の染色体に取り付き、 変異を起こした神経細胞は神経伝達物質の生成と伝達を阻害され、感染者は急性心筋 梗塞のような発作を起こし、あるいは急性全身マヒに陥って、死亡する」

病原である増殖性核酸が、宿主バクテリアの染色体中に隠れているという、今だかつてない形態で、真の原因が突き止まられぬまま、南極の一万人を残して人類は死滅します。

リンスキイ核酸 ; MM-88の、真の病原である増殖感染性核酸。 無名の医学者A.リンスキイの名を記念するため、南極最高会議が命名した。 リンスキイは、開発に携わった者たちから情報を集め、研究所の設備をフルに利用してその全貌をほぼ解明したが、事態は既に終焉に近付いていた。しかし彼は、自身の死の床から、そして死しても尚、生き残る地域があれば役立てようと、エンドレステープとアマチュア無線で、世界に情報を伝えようとした。

WA5PS ; リンスキイ核酸の隠れ蓑である宿主バクテリア。A.リンスキイ無線局のコールサインを、南極最高会議が冠した。

私の認識に誤りがあれば、ご指摘下さい。

そして物語は、人類の愚かな憎悪の遺産に、運命の悪戯に翻弄される後半へ。

災役の年から4年、米海軍原子力潜水艦ネレイド号による毎年の調査報告は変わらず、外界は死の病原体で汚染されています。 地震学が専門の、日本の学者・吉住利夫が地学委員会に提出した、アラスカで間もなく大地震が起こるというレポートに、むしろ行政委員会が強い関心を持ち、彼に説明を求めます。この、遥か彼方、地球の反対側で起こり、南極への影響はないと思われる地震への、興味の理由が解らぬまま吉住は説明し、これに対し南極連合(最早各国は存在しない)最高会議は、色めき立ちます。

ここでもやはり小松氏の、地学や地球物理学の知識の豊富さに驚かされます。そしてそれは、9年後に発表される「日本沈没」に繋がって行きます。

米国は敵国のミサイル攻撃に対するARS(全自動報復攻撃システム)を、シルバーランド前政権時代に配備しており、一方ソ連も、同様のシステムを持っています。アラスカのレーダー基地が大地震によるダメージを受ければ、これを敵国による攻撃と誤認し、ソ連に向けて核ミサイルが発射されます。この攻撃を受けたソ連のARSが、米国に核ミサイルを発射します。その一部が南極に向けられていることも否定できません。今ある情報に基づいた推測から、米国のARS がONになっている可能性を50%、ソ連の同システムが活きている可能性も50%、その内の何発かが南極を狙っている可能性も50%とし、システム故障などの要素を考えても、なお数パーセントの確率で南極が危険に晒されていると考えなければなりません。

この危険を回避する方法はただ一つ。未だMM-88の蔓延するワシントンとモスクワへ、誰かが命に代えて ARSを止めに行くことです。ホワイトハウス地下9階指令室の、スイッチの場所を知っているカーター少佐と、地震が予測よりも早まることを危惧して志願した吉住が、ネレイド号でワシントンへ、同様にネフスキイ大尉と、助手としてマリウスがソ連原子力潜水艦T-232でモスクワへ、それぞれ赴きます。南極を、そして生き残った僅かな人類を守るため…。

災役の年、南シェットランド諸島沖合に流れ着いた馬の死骸から、細心の警戒の末南極で初めてMM-88を分離して以来4年、A.リンスキイからの情報を元に、南極の乏しい設備で研究を続けていたド・ラ・トゥール博士が、基地の増殖炉を使い高速中性子を当てることで、感染予防に役立つ可能性のあるWA5PS変異体を作るに至ります。また、米国隊の施設が集中している地域は、女性と子供、そして小さな施設から、最悪の事態に備え、基地疎開を始めます。

パーマー半島突端の希望湾から、二隻の潜水艦が長い旅に出ます。寒気と夜の世界から温帯への、本来喜びに満ちている筈の出発は、見送る方も赴く方も、沈痛な思いです。 ワシントン上陸前、まだ確性されていないワクチン(正確にはワクチンでなく、異種菌平衡で増殖を抑える変成体。以降同様)を、吉住とカーターに、博士は申し訳なさそうに、しかし彼らは喜んで、試します。

予測よりも早く起こり、アラスカからワシントンに伝わる予震そして本震の中、ホワイトハウス地下9階に辿り着くまでの困難により、カーターが致命的な傷を負いながら二人は指令室へ急ぎます。しかし間一髪間に合わず、ミサイルは発射されます。米国から無人のソ連へ、そしてソ連から無人の米国へ…。

しかしソ連の核弾頭は、結局南極に一発も向けられてはいませんでした。

それから2年、博士はワクチンの改良を重ね、ド・ラ・トゥール変成体として確性します。更に3年かけてようやく20人分のワクチンを作り、人々は、南極から南米大陸最南端のリオガレーゴスへ、少しずつ移住を始めます。最初は食料と粗末な無電機を積んだ小さな帆船で、7人、そして10人。この先発隊の調査で、南米大陸に陸上哺乳類が復活していることが判り、空気中にWA5PSの原種はみつからず、ド・ラ・トゥール変成体に良く似た無害の変種のみが認められました。 飛び交った数千発の核爆弾の70%は、建造物破壊や放射能汚染がごく僅かな、人命だけを殺傷する中性子爆弾でした。

この何千もの核爆発により放出された高速中性子によって、大方のWA5PSが死滅し、ド・ラ・トゥール変種が大量にでき、ここに新種細菌が原種細菌を根絶したのではないか、と博士は考えます。

更に1年後、少しはましな船で、100人、更に100人。次いで女性と子供を含む一団が岸を踏んだ時、上陸地点外れの岩影から、痩せこけた、髪とひげが伸び放題の、原始人のような男が姿を現します。イルマ・オーリックがこの男に、6年前、出発前夜を共に過ごした吉住の面影を認める瞬間は、何度読んでも、何度観ても、熱いものがこみ上げる、感動の場面です。中性子で脳にダメージを受けながらも、ワシントンから6年かけて歩いて帰って来た吉住と、彼を抱きしめ労るイルマ。彼女はつき切りで看病し、手元から放しません。

ド・ラ・トゥール博士は

・ワシントンを襲った核ミサイルも、中性子爆弾であった。

・その時ホワイトハウスの地下9階にいて、水爆による蒸発を免れた。

・WA5PS変成体の免疫効果があった。

と考え、吉住が生きていたことに納得します。

博士を含む奥地探検隊が、明日、北へ向けて出発します。人類が、再び世界に広がって行くことを示唆して、物語は終わります。

英語なのでどうしても解らない部分も少なからずある一方、理解しようとしてじっくり読むことにより、日本語で速く読んだ時には気に留めなかった、細かな、しかし印象的な場面が、私の心に強く残りました。英訳版の私による解釈なので、原作のニュアンスと異なっているかもしれませんが、私の感想と類推も含め紹介します。以下の二つです。

死地に赴くため、昭和基地から経由地のベルギー隊ブレード基地へ移動する吉住を見送るに当り、誰も気の利いたことが言えません。皆、ありきたりのことしか言えません。何も言えず、泣きながら握手をする者もいます。そんな中で最後に、隊長のドクター中西は、涙を流しながらもこう言います。

「帰ってこい。今日のここはまるで葬式のようだったと、いつか笑い飛ばせるよう、生きて帰ってこい」いざという時、こんなことが言えるようでありたいと思います。

出発前夜、潜水艦基地近くの、アルゼンチン / チリ合同基地で催された食事会。 モスクワに赴くマリウスのピアノ演奏にしばし酔った後、皆で最後の乾杯をします。滅びてしまった世界に、生き残った南極に、そして死地に赴く4人の若者に。しかしコンウェイ提督だけは、いつまでも杯を傾けません。子供じみた考えによる愚かな対立が残した、危険な遺産の影響を取り除くために、若く有能な彼らを死地に赴かせなければならないことが無念で、その選択肢しかないことが悔しくてたまらないのです。乾杯から顔を背けるように窓の外に眼を向けるとそこには、美しいオーロラが、いつにも増して大きくはためいていました。

因みに英訳版は、最終チャプター「ド・ラ・トゥール博士の手記」の終盤のセグメントで、「復活の日」を先頭が大文字の「Resurrection Day」と表現していました。

…I wonder, however, when humanity’s “Resurrection Day” will truly arrive.

…The road north runs far into the distance, and our Resurrection Day is even farther.

科学の見識に優れ、その上に、現実的かつ感動的な人間ドラマを描く小松左京氏の傑作は、医学が人類を死滅させ、核兵器が人類を救ったという皮肉なお話です。アンプルという小さな「点」に始まり、その恐怖の翼が世界に広がって震撼させ、最後にまた南米大陸南端の小さな集落に収束する物語。そして再び人類が世界に広がっていくことを示唆して終わる壮大なストーリーを、この時期、是非ご一読下さい。

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