シティーポップ考3 新し過ぎたロックバンド
1988年2月、東京にカッ飛んだロックバンドが現れ、約1年半、センセーショナルに活動しました。日本最高のキーボード奏者と称された松浦義和さんが結成したRAMU。デビュー曲「愛は心の仕事です」を聴いて、「こりゃあ凄いのが出て来たぞ」と嬉しく思い、ほくそ笑んだものでしたが…
https://www.youtube.com/watch?v=32wIcSHyJng
僕は会社に入って1年目から2年目にかけてで、当時の風潮にも流され我武者羅に仕事をし、忙しさにかまけてリアルタイムで聴き込むことも、ライブを観に行くこともしませんでした。それを今大いに後悔しています。
彼らが残したハイセンスな、そして唯一のアルバム「Thanksgiving」
https://www.youtube.com/watch?v=1BFgVgLL5Kk
#1:Rainy Night Lady
煌びやかなキーボードのサウンドと強力なビートで、一人の女性の自立を格好良く描いた、アルバムのオープニングに相応しい作品です。
♬ 夜が滲む 車道の端 横付けて ざわめきを 歩き出す ♩
雨の夜をイメージさせるギターの深い音。
男女雇用機会均等法施行が1986年で、時代を反映していますが、今聴いても少しも古びていません。美しいコーラスも、詞を上手くサポートしています。
♪ Yes, I can make it. (もう自分で決められる)
♫ Now I just found it. (自分の生き方を見つけた)
間奏の [rainy night]×3 の斬新なタイミングと格好良さ。
♪あの日の遠い潮騒 眩しいシーズン♩
と過去を振り返り、強力なビートでフェイドアウトして行きます。
#2:Carnaval
乗っけから斬新なビート。熱帯の街。
♪砂煙の道を スコールが駆け抜け 異国の街角を 叩きつける ♩
#3:夏と秋のGood-Luck
ボーカルの頭のメロディーだけでも充分にシティーポップです。天使の歌声が良く似合う、透明感のある曲に仕上がっています。終盤、秋への展開からエンディングのフェイドアウトもハイセンス。
#4:Two Years After & #10:Love Talk
これらは、RAMUより前の桃子ファンを意識したと思われる優しいバラードです。
#5:少年は天使を殺す & #7:TOKYO野蛮人
エンジェリックな歌声が物騒な言葉を口にする、2nd & 3rdシングル。桃子さんの持つ柔らかい雰囲気との対比、RAMU以前の彼女とのギャップも新鮮な曲です。強力なビートと煌びやかなサウンド再び。#7のような「いけない男」を主役に据えた詞も斬新です。これまでの歌謡史になかったのではないでしょうか?
#6:One And Only & #9:Late Night Heartache
煌びやかさや軽快さを持つ他の8曲とは性質を異にする作品。#9の合いの手♪a aai aaai ♫が斬新です。
#8:片想い同盟
僕の最も気に入っている曲。ちょっとコミカルで、しかし美しく纏まった作品です。裏のコーラスが、ほぼ全編に亘り、軽快でご機嫌なリズムを作っています。
♩恋は気まぐれなものよ♪ の特に美しいハーモニー。
手拍子を模した軽いビートも心地良く、フェイドアウトして行きます。
強力で斬新なビートと、菊池桃子さんの柔らかい声、穏やかな表情とのコントラスト。張りのある声で叫ぶばかりがロックじゃない、という一つの答えを聞いたように思います。エンジェリックな、しかし浮遊せず足が地に着いた、魅力的なボーカル。
松浦さんは、そんなボーカルを永らく探していたそうです。一方菊池桃子さんは、完成した曲をただ歌うことに疑問を感じ、製作から関わることを希望していました。彼女の所属する、シティーポップオリエンテッドな事務所が両者の思惑を結び付け、RAMUが誕生したのでした。
私はRAMUよりも前の彼女には興味が持てず、RAMU後も「渋谷で5時」以外は良く知らないのですが、このバンドのボーカリストとしての彼女を、僕はとても格好良く、美しいと思っています。今Youtubeで数々のライブ映像を観ると、彼女の穏やかな表情は、作り笑顔とは思えず、緊張も含め心から楽しんでいるように見えます。当時桃子さんは、彼女にとっての新しい音楽を積極的に吸収していたとのこと。その前向きな姿勢が、美しく、格好良く見せていたんだろうな、というのは深読みし過ぎでしょうか。https://www.youtube.com/watch?v=qUjeD5MTsFA
ロザリン・キールさんとダリル・ホールデンさんによるコーラスも超一級品です。「片想い同盟」の美しいハーモニーから「少年は天使を殺す」の弾けたコーラスまで、幅広くこなしています。編曲を担当した新川博さんがロサンゼルスでオーディションをして日本に連れてきたそうです。きっとハリウッドには、メジャーではないけど才能溢れる人たちが、たくさんいるんだろうなあ。
4枚のシングル集はこちら。
https://www.youtube.com/watch?v=2Uj7hRnj7CI
4th「青山Killer物語」は、当時のトレンディードラマの主題歌にでもなりそうな、美しく纏まった曲です。
新し過ぎて、多くの人にはその良さが分らず正当に評価されなかった彼らの音楽は、30年以上が過ぎた今聞いても斬新です。最近その良さが見直され、再発売されています。
Cool it baby!